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東京地方裁判所 平成9年(ワ)19779号の甲 判決 1999年6月11日

東京都豊島区巣鴨二丁目一一番一号

原告

日水製薬株式会社

右代表者代表取締役

富本善久

右訴訟代理人弁護士

杉山克彦

柴崎栄一

椿正隆

井上清彦

山崎祐史

右補佐人弁理士

須藤阿佐子

福島県福島市郷野目字東一番地

被告

日東紡績株式会社

右代表者代表取締役

相良敦彦

東京都中央区日本橋富沢町五番五号

被告

ニットーボーメディカル株式会社

右代表者代表取締役

杢野信保

被告ら訴訟代理人弁護士

大治右

坂東規子

被告ら訴訟復代理人弁護士

上石奈緒

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告らによる商品の製造販売が原告の有する特許権を侵害(間接侵害)すると主張して、被告らに対して損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告の有する特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。

発明の名称 免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法

出願日 昭和五七年六月三日

公告日 平成四年二月一九日

登録日 平成五年八月一三日

登録番号 第一七七九一七七号

特許請求の範囲 別紙「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり(以下、右出願公告公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)

2  本件発明の構成

A 次の四種の液を調整する。

a 検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液T

b 検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SB

c 生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RB

d 生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BB

B これら四種の液をそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT、 ASB、 ARB及びABB)を測定する。

C CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定する。

D 一方、右記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておく。

E 右記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求める。

3  被告らの行為

被告日東紡績株式会社は、昭和六三年ころから、別紙方法目録記載の方法(以下「イ号方法」という。)の実施に使用する別紙物件目録記載の物件(以下「イ号製品」という。)を業として製造し、全量を被告ニットーボーメディカル株式会社に対して販売している。被告ニットーボーメディカル株式会社は、昭和六三年ころから、イ号物件を業として販売している。

なお、イ号方法は、日立七〇五形自動分析装置又は日立七〇五〇形自動分析装置により実施することができる。

二  争点

1  イ号方法と本件発明の構成の対比

(原告の主張)

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成をすべて充足する。

(一) 本件発明に係る方法(以下「本件特許方法」という。)及びイ号方法の特徴

本件特許方法の測定原理は、免疫比濁法(Turbidimetry)を適用してエンドポイント法により血清CRPの定量を行うというものである。また、本件特許方法の特徴は、緩衝液ブランク、試薬ブランク、検体ブランクを厳密に差し引くことを必須要件とすることにより、血清CRPの低量域の測定を可能としていることにある。

本件特許の出願前、CRP検査法としては、ルーチン検査法やレーザー比濁法(比朧法)があった。しかし、毛細管法、ラテックス凝集法、一元免疫拡散法等のルーチン検査法では、CRP値の変動の定量的な把握、特に低値域におけるCRP値の変動の把握に難点があった。また、比朧法は、測定感度が優れていたが、機器が高価であり、測定精度、範囲に問題があり、試薬や検体血清の澄明度に注意を払う必要があり前処理が煩雑となる等の欠点が存した。

本件特許方法は、<1>出願当時、測定感度において比朧法より劣るとされ、血液中の微量物質の測定に利用されていなかった免疫比濁法を用い、<2>血清CRPの測定に、免疫比濁法や生化学物質の測定用の理論又はこれを表した算定式を適用して、緩衝液ブランク、試薬ブランク、検体ブランクそれぞれの差引を厳密に実施することにより、課題を解決したものである。

出願当時の技術水準に照らせば、本件発明の構成要件の解釈は、後記(二)ないし(四)のとおりとなるべきである。

これに対して、イ号方法の特徴は、次のとおりであるから、イ号方法も、その測定原理は免疫比濁法のエンドポイント法により血清CRPの測定を行うものである。したがって、イ号方法は、測定原理と特徴において、本件特許方法と同一である。

<1> 自動分析装置の反応容器に、検体が自動的に採取され、これに緩衝液R-1が自動的に加えられる(以下、この液を「イ号1液」という)。

<2> イ号1液が反応した後、吸光度A1が測定される。

<3> 次に、同反応容器内のイ号1液に抗CRP血清溶液R-2が追加分注される(以下、この液を「イ号2液」という)。

<4> イ号2液が反応した後、吸光度A2が測定される。

<5> 装置内蔵のコンピューターによりAX=A2-KA1が演算されAXが得られる(kは液量補正係数)。

<6> 同様に、検体に代えてブランク用の生理食塩水を用いて右記<1>と同様の操作が行われる(以下、この液を「イ号3液」という)。

<7> イ号3液が反応した後、右の液の吸光度A3が測定される。

<8> 反応容器内のイ号3液に抗CRP血清溶液R-2が追加分注される(以下、この液を「イ号4液」という)。

<9> イ号4液が反応した後、吸光度A4が測定される。

<10> WX=A4-KA3が演算され、WXが得られる。

<11> ACRP=AX-WXが演算される。

<12> 以上と同様の操作がCRP既知濃度の標準品についても行われ、CRP濃度と吸光度との関係が演算される。

<13> <11>で求めた血清CRPの免疫反応による生成物質の吸光度から、検体中のCRPの濃度が算出される。

(二) 構成要件Aについて

イ号方法においては、以下のとおり、被験液T、検体ブランク液SB、試薬ブランク液RB、緩衝液ブランク液BBの四種の液を調製している。

すなわち、イ号1液は検体と緩衝液R-1との混合液であるから、検体ブランク液SBに該当し、イ号2液はイ号1液と抗CRP血清溶液R-2(抗血清と緩衝液との混合液)との混合液、すなわち検体と抗血清と緩衝液との混合液であるから、被験液Tに該当する。イ号3液は生理食塩水と緩衝液R-1との混合液であるから、緩衝液ブランク液BBに該当し、イ号4液は生理食塩水と抗血清溶液R-2との混合液、すなわち生理食塩水と抗血清と緩衝液との混合液であるから、試薬ブランク液RBに該当する。

本件特許方法においては、四種の液の調製の順序、調製方法等について何らの限定をしていない。したがって、イ号1液にR-2を追加する方法でイ号2液を調製しても、イ号2液は本件特許方法における「被験液T」に該当すると解される。同様の理由により、イ号4液も、本件特許方法における「試薬ブランク液RB」に該当すると解される。

(三) 構成要件Bについて

構成要件Bにおける「インキュベートしてプラトーに達せしめ」とは、反応のための時間をおいて、吸光度の経時的変化を示す曲線を高原状態に達せしめることを意味する。高原状態とは同曲線の勾配が急峻な状態を脱してなだらかになった状態をいう。

目的物質による反応生成物の量(吸光度により測定)から目的物質の定量を行うエンドポイント法は、元来生化学反応による定量方法であった。これを免疫反応による比濁法に応用して、従来のCRP定量法ではできなかった課題を解決したのが本件発明である。しかし、免疫反応では、生化学反応におけるように反応終了点が明確ではないし、反応を完全に終了させなくても、反応曲線がプラトーに達した状態で測定すれば検査目的に適った精度の定量が可能である。そのため本件発明は、「インキュベートしてプラトーに達せしめ」ることを構成要件としている。

イ号方法はフイックスドタイム法を用いる方法であるが、フィックスドタイム法は、自動分析装置と当該自動分析装置の設定時間内に反応が最終段階(プラトー)に達するよう調整された自動分析装置専用の試薬とを用いて、設定された一定時間後に吸光度測定を行う点に特長がある。フィックスドタイム法は、一定時間経過後に吸光度測定を行うものではあるが、同装置用試薬を用いることによりエンドポイント法の原理を用いて定量を行うので、一般にエンドポイント法の一種として分類されている。日立七〇五形自動分析装置の取扱説明書の記載においても、イ号方法の実施モードである2ポイントアツセイ(これはフィックスドタイム法である)はエンドポイント法の一種として記載されている。

エンドポイント法では、原理的に反応が最終段階に達しない時点で測定しても正確な定量はできないのであるから、検査実務上要求される精度の定量を行っているというそのこと自体が、イ号方法では反応の最終段階でプラトーに達した後に測定を行っていることを示している。

(四) 構成要件Cについて

イ号方法では液量補正計数kを用いて補正を行うが、これは本件発明の計算式の適用の準備として当然されるべきことである。液量補正(k)は、本件発明が予定する態様の実施方法のために必要な補正であるから、自動化に際して適宜なし得るのは当然であり、液量補正(k)をもって、本件発明における計算式と異なるものとすることはできない。

(五) 均等

イ号方法が、本件発明に係る明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて確定された構成と異なる部分が存在しても、イ号方法は、以下のとおり、本件発明と技術思想の本質的部分を同じくするから、これと均等である。

すなわち、仮に、本件特許方法が二液を測定対象とするのに対し、イ号方法が三液を測定対象とする点において相違するとしても、どのように組合わせて液を構成するかは適宜選択できることであり、単に液量が異なるだけにすぎないのであるから、相違する部分は本質的でなく、相違する部分をイ号方法のものに置き換えることが可能であり、置き換えることが当業者にとって容易であった。また、仮に、本件特許方法とイ号方法とは、液量補正の有無の点において相違するとしても、使用液量が異なる場合に液量補正値kを考慮することは当然であるから、相違する部分は本質的でなく、相違する部分をイ号方法のものに置き換えることが可能であり、置き換えることが当業者にとって容易であった。

(六) 禁反言の主張ないし出願前公知の主張に対して

以下のとおり、原告の主張は出願段階における主張と相反するものではないし、本件発明が出願当時に公知であったということもない。

原告は、出願段階における拒絶理由通知に対する意見書で、比朧法においてブランク補正をする方法が当然であると述べたにすぎず、比濁法による血清CRPの測定においてブランク補正が当然であると述べたのではないことは、その文脈から明らかである。確かに、算定式自体は免疫比濁法や生化学物質の測定用の理論又はこれを表した算定式として周知のものであるが、CRPの免疫比濁法の算定式としては新規なものであるから、原告が前記のように述べたからといって、技術的範囲に影響することはないというべきである。

日立七〇五形自動分析装置は、生化学反応用に開発されたものであり、その取扱説明書には、酵素法等の生化学反応による分析の工程が示されているのみである。右説明書には、CRPは測定項目として記載されていないが、これは当時同装置でCRP定量が行われていなかったことを示す。原告が本件発明をし、本件特許出願後に原告が同装置向けのCRP定量試薬を開発し販売したので、その時以降同装置によるCRP定量が可能になったが、それ以前には同装置によるCRP定量は全く不可能であった。高橋栄古による異議申立てに対する答弁書では、<1>算定式自体は免疫比濁法や生化学物質の測定用の理論又はこれを表した算定式として周知のものであるが、CRPの免疫比濁法の算定式としては新規なものであるから、同装置にCRPの免疫比濁法の算定式が組み込まれている事実はないこと、<2>出願当時公知だった方法による測定では、血清中濃度がCRPに比して著しく高いため、低濃度域の測定精度を重視する必要がなかったので、緩衝液ブランク液に関する概念が導入されていないこと、<3>同装置に本件特許方法を適用するのは困難であったが、最終的には適用できたこと、を主張しているにすぎない。

なお、日立理化学機器セールスインフオメーションは、販売会社、アフターサービス会社の判断に基づき、特定の顧客に渡すことができるにすぎず、交付した相手には取扱いに注意する義務を課しているから、本件特許権に係る出願前の公知資料には当たらない。

(被告らの反論)

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成を充足しない。

(一) 構成要件Aについて

イ号方法では、検体に緩衝液を加えて調整したイ号1液の吸光度を測った後、これに抗血清溶液を加えてイ号2液とし、この吸光度を測定する。イ号3液、イ号4液についても同様である。

このようにイ号方法においては、イ号1液とイ号2液は、検体を共有している。これに対し、本件発明における検体ブランク液SBと比験液Tは、検体血清を二度サンプリングしており、検体を共有していない。イ号3液、4液と緩衝液ブランク液BB、試薬ブランク液RBとの関係も同様である。

イ号方法は、用手法ではなく、自動化法を前提とするCRPの定量方法である。具体的には、日立七〇五形自動分析装置の仕様に基づき、免疫比濁法により定量を行う。右装置では、イ号1液とイ号2液で検体血清を共有する仕様となっている。その利点は、検査すべき試料(患者の血清)の量が半分で済むこと、作業手順が少なくて済み、作業時間が短縮されることである。イ号方法は、構成要件Aを充足しない。

(二) 構成要件Bについて

原告が主張するように、本件発明の「インキュベートしてプラトーに達せしめる」とは、反応に必要な時間が経過したことを意味すると解すべきところ、イ号方法では、反応に必要な時間を経過させる必要はない。むしろ、反応が生成される中間段階の生成物の量を計測するものである。イ号方法の反応時間は、反応が終了したかどうかに関わりなく、日立七〇五形装置の仕様に基づき五分間と定められており、五分間では反応は終了しない。

用手法においては反応容器と測定容器が異なり、一定時間インキュベートした後、反応液が反応容器から測定容器に移され、そこで光が照射され、吸光度が測定される。実際に病院で患者の血清のCRP測定を行う場合、検査対象は多数であるから、用手法では、反応から測定まで検体により少なからざるタイムラグが生じる。そこで、多数の検体について試薬と混合させてからプラトーに達せしめるまで待ち、その後、測定することにすれば、タイムラグにより測定誤差が生じることを最小限にくい止められる。しかし、イ号方法は厳密な時間管理の下で測定されるので、タイムラグの発生する危険性はなく、プラトーに達してから測定する必要はない。

イ号方法は、構成要件Bを充足しない。

(三) 構成要件Cについて

本件発明は、用手法により四回エンドポイント法を実施するものである。したがって、一液について測定する回数は一回である(一ポイント法)。イ号方法では、検体を共有するので、検体ブランク補正は、まず被験液に緩衝液を添加して検体ブランクを測定し、次に抗CRP血清を添加して主反応を液量補正をした上で測定することになる。したがって、測定する回数は二回である(二ポイント法)。二ポイント法は、自動化法を前提とする方法であり、用手法では、操作が煩雑になり、測定精度の低下を招き、実用的ではない。

本件発明は、液量補正を前提としないので、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB

として算定するのに対し、イ号方法は、液量補正計数kを用いて補正を行うことになり、右の式で算定することはない。

イ号方法は、構成要件Cを充足しない。

(四) 禁反言ないし出願前公知について

(1) 禁反言について

本件特許の出願過程において、審査官からの「免疫比濁法により、各種の抗原成分を測定することは、本願出願前より周知であり、これを、CRPの測定に適用することは、当業者が容易になし得たものと認められる」との理由による拒絶査定に対し、原告は、次のとおり主張した。

すなわち、「本願方法では、

a)四種類の液を調製する

b)それぞれインキュベートしてプラトーに達せしめる

c)各液の吸光度を測定する

d)各液の吸光度を演算式に代入して検体血清の吸光度(ACRP)を算出する

e)標準検量線を予め作成しておく

f)吸光度値(ACRP)を標準検量線に照合する

方法を採ったが、右a)・d)の工程は引例文献に開示、示唆されていない。」と主張した。

このように、原告は、出願経過において、本件発明の内容が、四種類の液を調製し、それぞれインキュベートしてプラトーに達せしめ、各液の吸光度を測定するものであることを明確に主張している。

また、高橋栄古による異議申立てに対する答弁書でも、イ号方法が用いられている日立七〇五形自動分析装置には、本件発明で規定されている計算式が組み込まれていない旨主張している。

したがって、原告がこれらの記載に反する主張をすることは許されない。

(2) 出願前公知について

本件特許方法は、当業者には既に公知であった。原告自身、高橋栄古による異議申立に対する答弁書で、本件特許出願以前の刊行物に記載された方法と計算式が同一内容であることを認めている。右方法は、測定対象をCRPと異にするが、CRP自体の定量測定のために同様のブランク補正を行う方法も出願前に公表されている。これは、CRP定量に係る比朧法において、吸光度のブランク補正を行う方法である。免疫比濁法と免疫比朧法は照射により生じた反応液の透過光を測定するか(比濁法)散乱光を測定するか(比朧法)の相違があるだけである。したがって、本件発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本件発明の出願以前である昭和五六年一月に作成された日立七〇五形自動分析装置取扱説明書では、本件発明の演算式と同様の概念により免疫比濁法に基づく定量が行われていたことが示されている。昭和五七年五月二六日付けの「七〇五形新分野への応用(その4)」と題する日立理化学機器セールスインフオメーションには、イ号方法が、そのまま記載されている。右セールスインフオメーションは、本件特許出願前の昭和五七年五月二六日に発行され、販売会社、関連会社、ユーザーに広く頒布されていたから、右セールスインフオメーションに記載された方法は、既に本件特許出願前に公知となっていた。

したがって、本件特許権の範囲としては、原告自身が発明の詳細な説明により明らかにしている範囲に限られるべきである。そうすると、イ号方法は、調整液の調整方法、液の調整と吸光度の測定の順序、方法において、本件発明と明らかに異なる。

2  損害額

(原告の主張)

被告ニットーボーメディカル株式会社が、本件特許権の公告日である平成四年二月一九日から平成八年末までに販売した血清CRP定量のための検査薬の売上高は、三一億九三四九万円と推定される。原告が通常受けるべき実施料相当額は売上高の五パーセントが相当であるから、原告は、被告らの共同不法行為により一億五九六七万円の損害を被った。したがって、被告らは、これを連帯して賠償すべき責任を負う。原告は、本件訴訟において、その内金五〇〇〇万円及びこれに対する催告書到達の翌日である平成九年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  争点に対する判断

一  イ号方法と本件発明の構成の対比について

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成要件AないしCを充足しないので、原告の主張は失当である。

1  本件発明の技術的範囲について

本件発明の技術的範囲につき、(一)ないし(三)のとおりの理由から、特許請求の範囲の記載を基礎として、本件特許出願手続における補正及び異議申立の経緯等を考慮すると、以下のとおり確定することができる。順に検討する。

(一) 本件特許請求の範囲の記載

(1) 本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「検体血清と抗血清使用液との混合液である被検液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT, ASB, ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(2) 右記載から、<1>調製する四種類の液は、被検液T、検体ブランク液SB、試薬ブランク液RB及び緩衝液ブランク液BBであること、<2>インキュベートしてプラトーに達せしめる対象とされる液は、「それぞれ」の液であること、<3>吸光度を測定する対象とされる液は、「それぞれ」の液であること、<4>測定される吸光度は、AT, ASB, ARB及びABBであることは明らかである。

そうすると、右記載に係る用語・文章を忠実に理解するならば、本件特許方法は、<1>検体血清と抗血清使用液とを混合して、被検液Tを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(AT)を測定し、<2>検体血清と検体ブランク緩衝液とを混合して、検体ブランク液SBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ASB)を測定し、<3>生理食塩液と抗血清使用液とを混合して、試薬ブランク液RBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ARB)を測定し、<4>生理食塩液と検体ブランク緩衝液とを混合して、緩衝液ブランク液BBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ABB)を測定し、<5>前記<1>ないし<4>の結果を受けて、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)として算定する方法であると解するのが相当である。

(二) 本件特許出願の経緯

(1) 補正の内容

(ア) 原告は、昭和五七年七月三〇日及び同年八月二四日、当初出願に係る特許請求の範囲の記載を補正した。補正後の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

「被検液(T)及び試験液(RB)並びにこれらのブランク液(SB及びBB)を調製し、これらをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

それぞれの液の吸光度(AT, ASB, ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

により算定し、一方上記と同様に但し血清の代わりにCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を作成し、上記算定吸光度値に該当するCRP値を上記検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(イ) これに対して、審査官は、平成二年一一月八日、「免疫比濁法により、各種の抗原成分を測定することは、本願出願前より周知であり(例えば、特開昭52-125623号)、これを、CRPの測定に適用することは、当業者が容易になし得たものと認められる」との理由により、拒絶査定を行った。

(ウ) 原告は、審判請求を行った上、平成三年一月二八日、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を補正し、現在の特許請求の範囲とした。

特許請求の範囲のうち、補正された部分は、次の傍線部である。

「検体血清抗血清使用液との混合液である被検液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT, ASB, ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(エ) 原告は、右補正に基づき、審判請求の理由として、拒絶査定での引例は、「免疫比濁法による測定原理そのものであり、当該原理に基づくものであり且つ特許保護の対象となるべき特定の具体的な手法ではないのです。」とした上、本件発明の内容について次のとおり述べた。

「本願発明は、当時における上記のような技術水準において既述の課題、通常の即ち一般の光学的濁度計を用いる比濁法では検出限界以下であって測定不可能と考えられ、又・・・ルーチン検査法では検出限界に近く且つ定量測定が極めて困難乃至不可能とされ、一方レーザー比濁法は測定感度は充分であるが実用的には課題があるとされていた血清CRPの測定を通常の光学的濁度計の使用を以って可能ならしめたものです。

本発明方法では、このために、先ず

a)下記の4種類の液、すなわち

ⅰ) 被験液(T):

検体血清と抗血清使用液との混合液、

ⅱ)検体ブランク液(SB):

検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液、

ⅲ)試薬ブランク液(RB):

生理食塩液と抗血清使用液との混合液、

及び、

ⅳ)緩衝液ブランク(BB):

生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液

とを調製し、

b)上記の各液を、それぞれ、インキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

c)各液の吸光度(AT, ASB, ARB及びABB)を測定し、

d)得られた各吸光度値を次式、すなわち

AT-ASB-(ARB-ABB)

に算入して得られた値を検体血清の吸光度(ACRP)とし、

e)上記のa)・d)項と同様にして、但し検体血清の代わりにCRP濃度が既知の且つ種々濃度のCRP標準液を用いてインキュベートし、プラトーに達した各液の吸光度を測定することにより吸光度値とCRP値乃至濃度との関係を示す、所謂「標準検量線」を予め作成しておき、

f)前記のd)項での算出により得られた吸光度値(ACRP)を上記のe)項で得た標準検量線に照合するのです。

このような本発明方法、殊に上記の工程の内のa)・d)の工程[工程e)及びf)自体周知の工程です]は前審引例文献に開示はおろか、示唆すらされておらず、又当該分野の通常の技術者が窺い知り得る処ではなかったのです。」

(右(ア)ないし(エ)の事実は、乙五、六、二二により認める。)

(2) 右出願経緯と本件発明の技術的範囲の解釈

右のとおりの出願経緯に照らすならば、右補正は、各液の構成を具体的に特定し、四種類の液をそれぞれ調製し、それぞれインキュベートしてプラトーに達せしめ、各液の吸光度を測定することを明確にした趣旨であることが明らかである。すなわち、原告の拒絶査定に対する不服審判における主張によれば、原告は、本件特許方法は、前記(1)(エ)aⅰ~ⅳ記載の具体的な構成を有する混合液を用いる旨明確にした上で、本件発明に係る特許権を取得したものであるというべきである。

以上のとおりの補正の内容及び審判での原告の主張の内容によれば、本件発明の技術的範囲は、前記(一)(2)に記載のとおりと解するのが相当である。

(三) 異議申立の経緯

(1) 異議申立及び答弁の内容

平成四年五月一八日に高橋栄古が異議申立てをし、日立七〇五形自動分析装置取扱説明書を引用したところ、これに対して、原告は、平成四年一一月二七日、答弁書を提出した。その中で、原告は、次のとおり述べた。

「甲第2号証に係る株式会社日立製作所製の705形自動分析装置に本願発明による定量法の理論、延いては本願発明方法において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しない」(七頁一四行~一八行)

「日立705形自動分析器は、本発明が関与する比濁定量ではなく、比色定量を基本とする生化学物質の測定用に設計されており、生化学物質の比色定量に際しては緩衝液ブランク液(BB)に関する吸光度(ABB)を無視し得ることが既述のように実験的にも証明されておりますので、当該値ABBの取扱いに関する概念は全く導入されておりません。」(一一頁一六行~一二頁二行)

「本願発明は、先ず汎用の分光光度計を測定機器とする用手法として確立され、そのための試薬が本出願人会社から『TIAテストーCRP「ニッスイ」』として市販され、次いで本発明方法の自動化のために甲第2号証に示される自動分析装置への適用を試みましたが、これは容易ではなかったのです。何故ならば、本願発明において規定されている計算方法を実行するためには1チャンネル測定では不可能であり、2チャンネル測定が要求されますが、2チャンネル測定を用いると検量線が設定できず、精度確保には手計算が必要となり、自動分析の意味の失われることが判明したのです。そこで鋭意検討の結果種々の変更(試薬の量や装置の計算パラメータの変更等)を加えることにより当該分析装置による自動測定の適用に成功し、当該分析装置を用いる場合の専用試薬として『TIAテストーCRPII「ニッスイ」705』を別途に販売するに至っているのです。」(一二頁八行~一三頁五行)

(乙八の五により認める。)

(2) 右異議申立時の答弁の経緯と本件発明の技術的範囲の解釈

以上の経緯に照らすならば、原告は、異議手続の中で、<1>株式会社日立製作所製の七〇五形自動分析装置には、本件発明において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しないこと、<2>右自動分析装置には、本件発明に規定された緩衝液ブランク液(BB)に関する吸光度(ABB)の取扱いに関する概念が全く導入されていないこと、<3>本件発明の右装置への適用は容易ではなかったため、計算パラメータの変更を含む種々の変更を加えなければ、右装置による自動測定の適用ができなかったこと、を明確に述べている。したがって、原告は、右装置において実施される方法に、本件発明における計算式で示される方法が含まれていないことを自ら認めていると解することができる。

この点について、原告は、右答弁書において、本件特許の出願時点では、日立七〇五形自動分析装置は生化学物質の測定用として設計されており、血清CRPの定量用として計算式が組み込まれておらず、したがって、該装置に本件発明の理論と同じ理論が生化学物質の測定用として取り込まれていたとしても、発明の新規性を喪失するものではない旨を述べたにすぎないと主張する。しかし、右装置において測定物質が何であるかによって右装置に組み込まれた計算式それ自体が変化するわけではないのであるから、原告自ら、答弁書において、右装置に本件発明において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しないと述べている以上、答弁書における記載を原告の本訴において主張するような趣旨に解することはできない。

2  イ号方法について

イ号方法は、一方で、<1>「検体と緩衝液R-1との二液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<2>これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた「検体と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<3>前記<1>及び<2>の結果に液量補正kを考慮して、検体を用いた場合の吸光度AXが演算され、他方で、<4>「生理食塩水と緩衝液R-1との二液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<5>これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた「生理食塩水と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<6>前記<4>及び<5>の結果に液量補正kを考慮して、生理食塩水を用いた場合の吸光度WXが演算され、<7>前記<3>及び<6>の結果から、AX-WXが演算される、というものである。

(なお、右液量補正kは次の式で表される。

<省略>

S、R1、R2はそれぞれ、検体量、R-1の添加量、R-2の添加量を意味する。)

3  本件発明の構成とイ号方法の対比

そこで、前記1における本件発明の技術的範囲の解釈を前提として、本件発明の構成とイ号方法との同一性を検討する。

(一) 構成要件A及びBについて

吸光度の測定対象液及びインキュベートの対象液について、本件発明においては、対象液が、<1>検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液T、<2>検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SB、<3>生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RB、及び<4>生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBであるのに対し、イ号方法においては、<1>検体と緩衝液R-1との二液の混合液、<2>検体と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液、<3>生理食塩水と緩衝液R-1との二液の混合液、<4>生理食塩水と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液である。

したがって、右<2>及び<4>の点については、本件発明においては二液の混合液をインキュベートし測定するのに対し、イ号方法では三液の混合液をインキュベートし測定するものであるから、対象である混合液の構成要素の数において異なる。

よって、イ号方法は、本件発明の構成要件A及びBを充足しない。

(二) 構成要件Cについて

吸光度の測定について、本件発明においては、単に四種類の液の吸光度を測定した上、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

という単なる引き算の形で求めているのに対し、イ号方法においては、測定した吸光度に液量補正kを考慮して、検体を用いた場合の吸光度AX及び生理食塩水を用いた場合の吸光度WXが演算され、AX-WXが演算されるものであって、両者は液量補正kの考慮が必要であるか否かの点で、明確に吸光度算定の数式を異にしているものである。

よって、イ号方法は、本件発明の構成要件Cを充足しない。

4  均等の主張について

原告は、仮にイ号方法が本件発明に係る特許請求の範囲の記載に基づく構成と異なる部分が存在した場合であっても、イ号方法は本件発明と均等である旨主張する。しかし、原告が、特許出願手続において述べた内容と異なる主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないというべきところ、前記1(二)「本件特許出願の経緯」及び(三)「異議申立の経緯」において、詳細に認定したとおりの事情を基礎にすれば、本件において、均等の主張を採用する余地はない。したがって、原告の主張は理由がない。

二  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 平4-9262

<51>Int.Cl.5G 01 N 33/52 織別記号 庁内整理番号 7055-2J <24><44>公告 平成4年(1992)2月19日

発明の数 1

<54>発明の名称 免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法

審判 平2-22913 <21>特願 昭57-94038 <55>公開 昭58-211659

<22>出願 昭57(1982)6月3日 <43>昭58(1983)12月9日

<72>発明者 柴田英昭 埼玉県春日部市新方袋1282-8

<72>発明者 梅田衛 茨城県猿島郡総和町上辺見474-1

<71>出願人 日水製薬 株式会社 東京都豊島区巣鴨2丁目11-1

<74>代理人 弁理士 佐々木功

審判の合議体 審判長 服部平八 審判官 山田充 審判官 平塚義三

<57>特許請求の範囲

1 検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキユベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(A、TASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARBABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。

発明の詳細な説明

本発明は血清CRPの簡易迅速定量法に係り、殊に免疫比濁法を利用する定量法に係る。

周知のように、CRPは急性相反応性血漿蛋白成分の一種であり、種々の炎症性及び組織崩壞性疾患に際して出現する非特異的蛋白成分であつて、生体に上記疾患が生じた場合に6~24時間以内の短時間で増量しその回復に伴ない減量消失すると謂う特徴を有しており、従つてその検査は臨床上不可欠とされている。

従来におけるCRP検査法としてはルーチン検査法例えば毛細管法、ラテツクス凝集法、一元免疫拡散法等が使用されて来たが、これら測定法ではCRP値の変動を時間の経過と共に定量的に把握することが不可能であつたり、測定感度、精度や操作時間等の問題により特に低値域におけるCRP値の変動の把握に難点がある等の欠陥があつた。

しかしながら最近では、検出方法の進歩により血漿中の種々の微量蛋白が定量的に測定し得るようになりつつある。この検出方法の代表例が比濁法であり、既述のルーチン検査法に代つて普及しつつある。

但し近年普及して来たこの比濁法はレーザー比濁計等を用いているので高感度ではあるが、その有用性については絶対的なものとは云えないのが実情である。蓋し、機器が極めて高価であるのみならず、測定精度や測定範囲に問題があり、又高感度故に試薬や検体血清の澄明度に特別の注意を払う必要があるのでその前処理が煩雑となる等の欠点が存在するからであり、更にはレーザー比濁法は脂濁血清、黄疸血清又は溶血血清を検体とする場合に不適当であり、又不活化しない血清では可成りのバラツキの出ることが報告されているからである.

斯くて、本発明の目的は、免疫比濁法を利用するものではあるが、特殊にして高価な機器を必要とせずに、安定且つ良好な精度にて実施し得る血清CRPの比較的迅速な定量法を提供することである。

本発明によれば、この目的は検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキユベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(A、TASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることにより達成される。

抗原-抗体複合体は光を消散し或は吸収するが、同じ濁度(吸光度)は抗原過剰状態でも或いは抗体過剰状態でも得られる可能性がある.免疫比濁法による血清CRPの定量に際しては吸光度測定を抗体過剰状態で行ない抗原過剰状態のものとは之を区別せねばならない。従つて、このためには特異性が高く且つ高力価の抗血清が必要とされる。

本発明方法に使用されるこの種の抗血清としては例えば抗ヒトCRPヤギ血清から得られたγ-グロブリン分画がある。

次に、試薬、標準液測定方法、結果等に関連して本発明方法を更に詳細に説明する。

a) 試薬及び標準液

1) 緩衝液

ⅰ) 抗血清希釈緩衝液

HEPES bufferpH7.1

0.01M HEPES

0.1M NaCl、 0.1% NaN3

ⅱ) 検体緩衝液

PEG6000 3%

Tween20 0.2%

ⅲ) 検体ブランク緩衝液

(抗血清希釈緩衝液を検体緩衝液で11倍に希釈したもの)

2) 希釈液

CRP標準液及び検体の希釈用であつて、生理食塩水をベースとする3%ウシアルブミン液とヒトプール血清(CRP除去)との7対3混液

3) 生理食塩液

4) CRP1次標準液

ガン患者のプール腹水からイオン交換クロマト、ゲル〓過でCRPを純化したもの。その純度はアクリルアミド電気泳動法、オクタロニー法、免疫泳動法で確認され、このCRP標準液の濃度は蛋白定量、アフイニテイークロマトグラフイー及びSRID法により決定された。

5) CRP2次標準液

プール腹水から硫酸アンモニウム分画により得た組CRPを希釈液で一定の濃度に希釈したものであつて、その濃度は1次標準液を用いSRID法により決定された。この2次標準液は4℃に維持する場合には少なくとも6ケ月間に亘り安定である。

6) 抗CRP血清

抗ヒトCRPヤギ血清から得たγ-グロブリン分画を抗血清希釈緩衝液に溶解したものであつて、その特異性はオクタロニー法及び免疫電気泳動法により確認された。

7) 抗血清原液

抗血清希釈緩衝液により2倍に希釈された抗CRP血清。この原液は4℃に維持する場合には少なくとも12ケ月間安定である.

8) 抗血清使用液

検体緩衝液により抗血清原液を11倍に希釈し、ミリボアフイルタ(ボアサイズ0.45μm)で〓過したもの.

b) 測定法

下記表

被験液(T) 検体ブランク液(SB) 試薬ブランク液(RB) 緩衝液ブランク液(BB)

検体血清 50μl 50μl - -

抗血清使用液 2.0ml - 2.0ml -

被験液(T) 検体ブランク液(SB) 試薬ブランク液(RB) 緩衝液ブランク液(BB)

検体ブランク緩衝液 - 2.0ml - 2.0ml

生理食塩液 - - 50μl 50μl

に見られる4種の液を調製し、各液を37℃でインキユベートした後に波長340nmでの吸光度を測定し、検体血清の吸光度を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

により算定し、一方上記と同様にして但し血清の代りにCRP2次標準液を用いて操作して吸光度-CRP濃度に関する検量線を作成し、上記算定吸光度値に該当するCRP値を上記検量線を利用して求めることにより測定する。

e) 結果

ⅰ) 経時変化

CRP2次標準液を用いそのCRP濃度が164mg/l(a)、63mg/l(b)、15mg/l(c)及び4mg/l(d)の場合の吸光度変化(AT-ASB)について、又ARB-ABB(e)について120分間に亘り追究した処、反応は略々15分間で一定となり、その後は吸光度が変化しないことが判明した(第1図参照)。これはインキユベート時間が15分程度で充分なことを示している。

ⅱ) 沈降素曲線

抗血清使用液f及び希釈抗血清使用液g(検体ブランク緩衝液にて抗血清使用液を1/2に希釈したもの)を用いて沈降素曲線を追究した処、第2図に見られる通りであり、曲線は比較的緩やかであり、従つてこの抗血清は免疫比濁法に使用するに当つて充分な高力価を有し且つ測定範囲の汎いものであることが判る。

ⅲ) 検線

CRP2次標準液を用いてそのCRP濃度が8.0、29.5、65.0、114.5、164.0及び220.0mg/lのものを調製し、1日1回とし5日間に亘り吸光度を測定し、その平均値をCRP値に関してブロツトした処、第3図に示される通りであり極めて安定した直線性が得られた.

尚CRP値が220mg/l以上となると次第にスローブを呈する。

ⅳ) 測定値と算定値との相関性

CRP2次標準液を希釈してCRP値が7段階の検体(即ちCRP値が220、163、122、62、36、17及び9mg/lのもの)を調製し、測定値と算定値との関係につき5回の平均値をブロツトした処、第4図に見られる通り安定した直線が得られた。

このことは、本方法がCRP値が220mg/l又はそれ以下の検体を良好な精度で測定し得ることを示している。

ⅴ) 干渉物質の影響

ビリルビン及びヘモグロビンを血清に添加して測定したが、これら添加物質がCRP値に及ぼす影響は第5図a及びbに示されるように殆んど見られなかつた。

尚、脂濁血清、黄疸血清及び溶血血清に関する本方法による測定値は次の各表に示される通りSRID法による測定値と類似した値を示した(レーザー比濁法による測定値とも相関関係の存在を示している。但し脂濁血清に関してはレーザー比濁法では測定不能であつた)。

これらの事実は、レーザー比濁法で必要とされる検体血清の特別な前処理が、本発明では不要であることを如実に示している(表中の数値の単位はmg/lである)。

脂濁血清検体

添加物質 方法

トリグリセリド 本法 レーザー比濁法 SRID法

2580 64 - 60

4280 23 - 17

4720 73 - 70

5480 121 - 106

6440 79 - 67

黄疸血清検体

添加物質 方法

ビリルビン 本法 レーザー比濁法 SRID法

18 11 12 8

47 122 - 125

70 13 14 9

72 41 39 43

97 101 86 102

溶血血清検体

添加物質 方法

ヘモグロビン 本法 レーザー比濁法 SRID法

400 26 64 16

600 50 49 48

800 46 39 46

1000 1 - -

1400 10 5 8

叙上のように、本発明方法では測定値と計算値とが極めて良好な直線的相関関係を呈するので、機器として分光光度計さえあれげ血清CRPの定量測定が可能であり、これに検量線記憶、自動ブランク補正、ブリントアウト等の装置が付属していれば、その測定を迅速ならしめることができ、更には測定自体の自動化が可能である。

図面の簡単な説明

第1図はCRP濃度と吸光度との経時変化を示すグラフ、第2図は抗血清液の沈降素曲線を示すグラフ、第3図は検量線をその経日測定再現性と共に示すグラフ、第4図は測定値と計算値との関係を示すグラフ、第5図は干渉物質のCRP値に及ぼす影響を示すグラフであつて、第5図a及び第5図bは干渉物質としてそれぞれビリルビン及びヘモグロビンを添加した場合を示したグラフである。

第5図

<省略>

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

方法目録

血清中CRP測定試薬を使用する、免疫比濁法による血清中CRPの簡易迅速定量法

一 使用する測定試薬

1、緩衝液であるR-1

2、抗CRP血清または抗CRP血清溶液であるR-2

から成るキット

二、使用機種

二試薬系の2ポイントアッセイ法を有する自動分析装置

三、操作方法

使用される自動分析装置の仕様、操作手順に従い2ポイントアッセイで行う。

操作方法の具体例は左記のとおりである。具体例以外の被告製品を用い、具体例以外の自動分析装置を用いる場合もこれらに準ずる。

Nアッセイ TIA CRP-Sを株式会社日立製作所製七一五〇形自動分析装置(以下、「装置」という)に使用した場合

一、装置の指定箇所にR-1、R-2、標準液、生理食塩水および検体をセットする。

二、以下のパラメーターを入力する。

<1>テスト項目 --- CRP

<2>アッセイコード --- 2ポイント

<3>検体量 --- 一五μl(マイクロリットル)

<4>R-1量 --- 二五〇μl

<5>R-2量 --- 五〇μl

<6>測定主波長 --- 三四〇nm(ナノメートル)

<7>測定副波長 --- 七〇〇nm

<8>標準品濃度 --- 標準液に記載されたCRP濃度

三、装置のスタートボタンを押すと以下の操作が自動的に行われる。

〔1〕 測定に使用する反応容器(セル)が精製水で洗浄される。

〔2〕 反応容器の水ブランク測定が行われる。(この「水ブランク」の測定値は以後の各吸光度測定の過程で各吸光度値から自動的に差し引かれるので、以後にいう「吸光度(値)」はこれが差し引かれた後の値である。)

〔3〕 反応容器に検体一五μlが分注される。

〔4〕 〔3〕の反応容器にR-1二五〇μlが分注され、撹拌される。

〔5〕 〔4〕を三七℃で五分間反応させたのち、吸光度(ASB)が測定される。

〔6〕 〔5〕の測定後、同反応容器にR-2五〇μlが分注され、撹拌される。

〔7〕 〔6〕を三七℃で五分間反応させたのち、吸光度(AT)が測定される。

〔8〕 以上の行程により測定された吸光度に基づき、検体を用いた場合の吸光度(AX)が装置内蔵のコンピューターにより、次の計算式から演算される。

ACRP=AT-k・ASB

(式中、kは液量補正係数であり、次の計算式から求めた値である。

<省略>

なお、S、R1、R2はそれぞれ検体量、R-1の添加量、R-2の添加量を意味する。)

〔9〕 同様に検体に代えてブランク用の生理食塩水を用いて、上記〔3〕~〔8〕の操作が行われ、試薬ブランクの吸光度(ARB)と緩衝液ブランクの吸光度(ABB)が測定される。

〔10〕 生理食塩水を用いた場合の吸光度(WX)が次式

WX=ARB-k・ABB

により演算される。

〔11〕 検体中のCRPの免疫反応による生成物による吸光度(ACRP)が次式

ACRP=AX-WX

により演算される。

〔12〕 以上と同様の操作が予め標準液についても行われ、吸光度とCRP値との関係を示す検量線が作成される。

〔13〕 〔12〕で得られた検量線により、〔11〕で得られた検体中のCRPの免疫反応による生成物による吸光度(ACRP)に対応するCRP値が算出され、プリントアウトされる。

物件目録

日東紡績株式会社・ニットーボーメディカル株式会社の製品

一、N-アッセイTIA CRPニットーボー製造承認番号 (六三E)第一九五五号

二、N-アッセイTIA CRP-Hニットーボー製造承認番号 (〇七AM)第〇四四九号

三、NアッセイTIA CRP-Sニットーボー製造承認番号 (〇三AM)第〇六九九号

特許公報

<省略>

<省略>

<省略>

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